奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「プランティエ大学に、ダビッドソンも留学してるんだよ。短期留学だけどさ」

「ダビッドソンが?いつからだよ」

「アダムと入れ違いかな。お前がルービリア大学に戻る数日前に短期留学したから」

「そうか。噂を吹聴しているのは、ダビッドソンか」

「挙式披露宴は彼女が安定期に入ってから、プランティエでするらしいぜ。ピエールも彼女の妊娠で観念したんだな。アダムももちろん招待されてるんだろ?お前ら仲良かったもんな」

「……安定期?」

「何だよ。《《そこ》》拘るとこか?」

「安定期って妊娠四~五ヵ月以降だよな?」

「おいおい、お前産科医希望だっけ?違うよな。そうなんじゃね?よくしらねーよ。向きになるなんて、変なヤツだな」

 フローラの妊娠月数で父親が誰なのか、判断できる。

  ピエールが俺の子供だと知った上で、フローラと結婚するなんて、ロンサール公爵が許すはずはない。

 それに……
 俺の子供なら、フローラから何らかの相談があったはずだ。

 俺達は短い期間だったけど、真剣に付き合って、真剣に愛し合っていた。

 ――俺は疑念を晴らすために、どうしても真実を確かめたくなった。

 午後の講義を終えた俺は、シャルルに頼みジュリアを呼び出す。

 いつもランチしていた木製のベンチに座り、ジュリアを待っていた。空は陰り灰色の雲が太陽を隠す。

「アダム君……」

「ジュリア、今日昼休憩に来なかったから、気になって……」

「ちょっと……」

 ジュリアはいつものように長袖のブラウスだった。淡いピンク色の袖口から、白い包帯が見えた。

 俺はジュリアの腕を掴む。

「アダム君、痛いっ……」
< 94 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop