奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 袖口を捲ると、白い包帯が巻かれていた。

 ――あの日の光景が、頭を過る。

「ジュリア、どうして自分を傷付けるんだよ」

 ジュリアは泣きながら首を左右に振る。

「俺のせいなのか?」

「違うの……違うの……。アダム君は関係ない……」

 ジュリアの頰を涙が伝う。

「自分でもわからないの。不安になると……自傷してしまうの。どうしたらいいかわからなくて……。迷惑かけて……ごめんなさい」

「ジュリア、もう自分を傷付けないで。迷惑だなんて思ってないから。俺達は友達だよ。ずっと……友達だよ」

 ジュリアは両手で顔を覆いポロポロと涙を溢した。俺はジュリアの手首に優しく触れる。

 無数に残る傷痕。
 ジュリアの心が悲鳴を上げた数だけ、この手首には傷痕が刻まれている。

「……俺が傍にいるから。だから……もうするな。ジュリアは一人じゃない。ご両親だって、フローラだって、ジュリアのことを迷惑だなんて思っていないよ」

 ジュリアは泣きながら、何度も何度も小さく頷いた。

「自分らしく生きていいんだよ」

 ジュリアの震える体をそっと抱き締めた。

 ◇

 ―あれから一ヶ月―

 フローラに妊娠の事実を確かめることが出来ないまま、月日だけが流れた。

 フローラから家族に、挙式披露宴の日程の知らせが届いたと、ジュリアから聞いた。

 その数日後、俺に招待状が届いた。
 差出人はピエールだった。

 ピエールがどういうつもりで、俺に招待状を送ったのか、俺には理解出来なかった。

 俺が二人の挙式に参列するなんて、常識では考えられないことだったから。
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