奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【フローラside】

 挙式前日、マルティーヌ王国より訪れた家族や親族のために、宿泊先のホテルで、ささやかなパーティーを開いた。

 記憶を無くした私は、家族や親族の顔も名前も思い出せないまま、笑顔を作りみんなに挨拶をする。

 数日前、私の不安を取り除くために、ピエールがスケッチブックに家族や親族の写真を貼り付け、その下に名前を書いてくれて、私はそれを見ながら名前を丸暗記した。

 全ては、ロンサール公爵家の嫁として、ピエールに恥をかかせないために。

 でも……
 そこに、アダム ウィンチェスターの名前はなかった。

「ねぇ、ピエール」

「何?」

「あの人……スケッチブックのデッサンの人に似てるよね?」

「……そうか?そんなことないよ。スケッチブックの肖像画は俺だから」

「そうかな?あの人の方が似てると思うんだけど。私……彼に逢ったことがあるのかな?初対面とは思えないくらい、とても懐かしい気がしたんだ……」

「彼もプランティエ大学に半年くらい留学していたからね。王立図書館もよく利用していたから、そこで見かけたんだろう」

「そうなの?だからかな……。彼にどこかで逢った気がしたの。『はじめまして』なんて、失礼だったかな」

 ピエールは一瞬黙り込み、私の手をギュと握った。

 少し怒ったような困り顔。
 それがどうしてなのか、私にはわからなかった。

 ただ、アダム君の顔を見ていると……懐かしさで胸がいっぱいになる。

 ずっと逢いたかった……?

 彼の顔も名前も、記憶にないのに……。
 彼にずっと逢いたかった気がしてならなかった。
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