なりゆき皇妃の異世界後宮物語
　そして贅沢をいうならば、曙光のことをもっと知り、もっと近づきたいと思っていた。


　朱熹の中で芽生えた淡い恋心に、本人はまだ気が付いてはいない。


「皇帝陛下がお見えになりました」


　今香の誇らしげな声が部屋に届く。


「はい」


　と返事をすると、扉がゆっくりと開かれた。


　両ひざをつき、拱手の姿勢で頭を下げる。


　曙光が部屋に入ると、扉は閉められた。


「堅苦しい礼はよせ」


　頭を下げ続けている朱熹に曙光が声を掛ける。


「そうはいきませんわ。……最初だけ」


　朱熹は頭を上げて曙光を見上げると、はにかむように微笑んだ。


　二人の間に、前回にはなかった親しい者同士の空気が流れる。


　まだ打ち解けているというほどでもなく、かといって他人行儀なわけでもなく、どこまで踏み込んでいいのか互いに探り合うような、甘酸っぱく照れくさい独特の空気感であった。
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