なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「そういえば最近府庫に出入りしているそうだな」


 曙光は何気なく話題を振った。


 朱熹の部屋に来た目的は、この件について話そうと思ったからだ。


 というのは建前で、本音は朱熹に会いたかったからなのだが。


「ええ、そうなんです。

府庫にはたくさんの書物があってとても楽しいです。

後宮にいるとどうやって過ごしたらいいか分からなくて、府庫の存在は私にとってなくてはならないものになっています」


 朱熹は嬉々として語った。


 そんな風に言われると、府庫に行ってほしくないとは口が裂けても言えない。


 どうしたものかと考える。


 あそこには出会ってほしくない相手がいる。


「芸術の森と呼ばれるあそこは、薄暗く不気味で宮廷の者達でさえ寄り付かないが……」


「外観には確かに驚きました。でも中は明るくて、神秘的な美しさがあります」


 朱熹はうっとりとして言った。


 よほど気に入っているらしい。
< 110 / 303 >

この作品をシェア

pagetop