なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「府庫には誰かいたか?」


「いいえ」


 〝府庫〟には誰もいない。


 朱熹は嘘をついている気も、隠しているわけでもなかった。


 曙光は朱熹の返答にひとまず安堵した。


 良かった、まだ出会っていないらしい。


「急に自由を制約される生活にさせてしまい、すまなかったな」


 曙光の優しい言葉に、朱熹は感動して胸が詰まった。


 いきなりこんな立場になって、昔のように自由に動くことはできなくて、いつも誰かに監視されているみたいで、そんな生活を辛くないとは言えなかった。


 正直、負担が大きくて不安に押しつぶされそうで、孤独で……。


 できれば元の生活に戻りたい。


 でも、自分の気持ちを理解してくれる人がいる。


 例えその人が、自分をこんな立場にした張本人だとしても、分かってくれていると思うだけで心強かった。
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