なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 朱熹は黙ったまま首を振った。


 大丈夫です、とも、もう慣れました、とも言えない。


 それは嘘になる。


 だから、ただ黙って首を振った。


「不便はないか?」


 朱熹の様子を見て、かなり耐えているのだなと察した曙光は、少しでも力になりたいと思った。


「いいえ」


 不便はない。むしろ供給過多なくらいだ。


「何か欲しいものはないか?」


「いいえ」


 朱熹は笑って答える。


 こんな豪華な暮らしをさせてもらって、これ以上何かを求める気にはならない。


「何かやりたいことは?」


 曙光があまりにも心配そうに聞くので、何か答えなければいけないような気がしてきた。


 朱熹は何かないか必死に頭を巡らす。


「あっ!」


 一つだけ大きな心残りがあったことを思い出した。


 でもこれは……。


 言うべきか迷っていると、曙光が急かすように言った。
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