なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「なんだ、何でもいいから言ってみろ」


「……私の作った餡餅を食べていただきたいです」


 朱熹は小さな声で言った。


 曙光は驚いて一瞬言葉に詰まった。


「それが、やりたいこと?」


「……はい」


 朱熹は誇りを持って餡餅を作っていた。


 それが皇帝陛下に献上する機会を得られて、召し上がっていただくことが楽しみだった。


 陛下に美味しいと言ってもらえたら、それだけで生涯の誉れとなるはずだった。


 あんなことがなければ……。


「実は……余もそれが一番心残りであった」


「え?」


「庶民の暮らしに寄り添い、国の名産品となるものを特需していくのは皇帝として重要な仕事の一つだ。

だが、仕事とはいえ、個人的にとても楽しみにしていたんだ」


 それは、朱熹にとって興味深い話であった。
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