なりゆき皇妃の異世界後宮物語
☬奪われた唇
 朱熹は今香に頼んで、調理場を内密に借りられることになった。


 皆が寝静まった夜に調理場に行き、朱熹一人で作業をする。


 手伝いはいらない。


 むしろ朱熹一人の方が作業がはかどるし、女官が朱熹の手際の良さを見たら驚いてしまうだろう。


 小麦粉に少量の水を加えて練りながら、朱熹は曙光のことを考えていた。


(どうして陛下からは心の声が聴こえないのだろう)


 ひとり言を多く呟く人もいれば、まったく呟かない人もいる。


 心の声もそれと似たようなものであると認識しているけれど、ここまでまったく聴こえてなかったことは初めてだ。


 曙光は元々あまり多くを語らない性質だろうと思う。


 それに加えて心の声まで一切聴こえなかったら、何を考えているのか分からなくなる。


(裏表がないということかしら?)


 裏がある腹黒い人物であるなら、必ずそれが心の声となる。
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