なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「あの時は食べ損ねたからな……」


 餡餅を見つめる曙光の瞳は、心の底から嬉しそうだった。


「まさか、毒なぞ入っておらぬよな?」


 ちらりと朱熹を見る。


「入っておりません!」


 むきになって否定する朱熹に、曙光はケラケラと笑う。


「もう、早く召し上がってください」


「いや、もう少し、拝んでおかないと……」


「そういう食べ物ではありません!」


 曙光は朱熹をからかい、たっぷり時間を使ってようやく餡餅を一口頬張った。


 朱熹は固唾を飲んで見つめる。


 曙光はゆっくりと咀嚼し、十分に味わってから喉仏を大きく上下に動かし飲み込んだ。


「……これは、驚いた」


 曙光は呆然と残りの餡餅を見つめ呟いた。


「驚いた?」


「想像以上に、美味い。こんな美味い食べ物初めて食べた」
< 121 / 303 >

この作品をシェア

pagetop