なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「……弾いてみる?」


「え!」


「音楽は人を自由にさせてくれる」


 ……自由。


 その言葉は、今の朱熹にとってとても魅力的なものだった。


 牢に閉じ込められて妃になってからというもの、まるで籠の中の鳥になったような気持ちだった。


 大空に飛び立ちたい。


 そう願っていたからこそ、陽蓮の音楽は朱熹の胸に深く響くのだ。


「……いいんですか?」


「いいよ、教えてあげる」


 おずおずと近付き、革胡に触れる。


 陽蓮が座っていた椅子に腰かけ、革胡を足の間に入れる。


「形式にとらわれず、思うままに弾けばいいんだ」


 陽蓮に促され、弓を弦に当て弾いてみると低音の鈍い音が響いた。


「私が弾くと壊れそう!」


 陽蓮とはまるで違う音の響きに、朱熹は驚いて声を上げた。
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