なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 もちろん曙光は、朱熹を物として見たことなど一度もない。


 とても大切で、誰にも渡したくなどなくて、心から愛しているからこそ、愛する人の意思を尊重したかったのだ。


 でもその思いは見事に逆効果となり、朱熹の怒りを買った。


「すまない、そんなつもりでは……」


 ポロポロと涙を零す朱熹を抱きしめようと手を伸ばすと、ぴしゃりと手を叩き返された。


「触らないで! 中途半端な気持ちで私に触らないで……」


 朱熹は両手で顔を覆って泣いた。


 中途半端な気持ちではない。心の底から愛している。


 けれど、皇帝の座を降りようとしている自分が、朱熹を抱きしめていいのか。


 これまでいつでも兄さんに皇帝の座を譲れるように、子供を作らないようにしてきた。


 後宮に一度も行かなかったのはそのためだ。
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