なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 朱熹を抱きしめたら……、本当の夫婦となり子供が生まれたら……、もう引き返せなくなる。


 兄さんに、皇帝の座を渡したくなくなるかもしれない。


 曙光の中で迷いが生じた。今までにないとても大きな迷いだ。


 逡巡している曙光に、やはり中途半端な気持ちなのかと朱熹は落胆した。


 分かっていたことじゃない。


 陛下が私のことを好きじゃないことは当たり前のことよ。


 それなのにどうして期待してしまったのだろう。


 愛していると告げられ、誰にも渡さないと抱きしめてくれることを待ってしまった……。


「もうしばらくここには来ないでください。私も色々と一人で考えたいので……」


 朱熹は涙を拭って、毅然として言い放った。
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