なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「まあ、確かにあの時は危なかった」


 曙光も二度目の的当ての準備に入る。


 ……あの時は、朱熹が助けてくれた。


 朱熹のことを思い出すと、胸がずきりと痛む。


 しばらく来ないでくださいと言われてから、十日が経過していた。


 もちろん言われた通り、部屋に訪れてはいない。


 曙光は弓を引き、再び赤丸で彩られた真ん中に矢を命中させる。


 互いに寸分の狂いのない最高の位置に矢が当たっている。


「最近、朱熹ちゃんのところへ訪れに行っていないらしいな」


 秦明はニヤニヤと笑いながら、位置に立った。


「なぜそれを知っている」


 曙光の顔が不機嫌そうに曇る。


「五年間一度もお渡りをしなかった皇帝の動向に、宮廷中の興味が注がれるのは当然だろう」
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