なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 朱熹の両親も、宮廷を毛嫌いしているふしがあって、それも少なからず影響しているのかもしれない。


身寄りのなかった朱熹は、両親と親交の深かった老夫婦に引き取られ今に至るが、朱熹は今の生活に十分満足していた。


店の戸締りをして、余った材料で簡単な夕食を食べていた時、役人が訪問してきた。


店の主人が対応している中、朱熹と奥さんは大して気に留めることなく夕食を食べ続けていた。


「た、大変だ!」


 役人と話終えた主人は、書状を握りしめながら血相を変えて戻ってきた。


「どうしたんですか、おじいさん」


 奥さんは、いつものおっとりとした様子で問いかける。


 朱熹は何事が起ったのかと、目を見開きながら主人を見つめた。


心の声は『大変だ、大変だ』しか言っていない。


「う、う、う、うちの餡餅を、皇帝陛下に献上することになった」


「ええええ!」


 朱熹と奥さんは同時に声を上げた。
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