なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 宮中ならいざしらず、ここは後宮。


 女だけの城である。曙光の声に応じ、男を捕らえられる者はいない。


 曙光は軽やかな身のこなしで塀を登り、追いかける。


 庭の外は生い茂る林となっていた。


 男の姿はもう見えなくなってしまったが、まだ諦めない。


 今まで姿を現し、ここまで近づいてきたことはなかった。


 この機会を逃したら、捕らえることは難しくなる。


「痛たたた!」


 暗闇の中から苦しみの声を上げる男の声がした。


 その方向に走っていくと、黒ずくめの男の肩をねじるように抑え、地面にひれ伏す体勢にして見事に捕らえていた者がいた。


「よくやった!」


 曙光は武官か一兵卒が黒ずくめの男を捕らえたと思い、喜びの声を上げた。


 しかし、近付いてよく見てみると、黒ずくめの男を捕らえた者は、曙光のよく知っている男だった。
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