なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「すまない、半刻しか時間が取れなかった。すぐに戻らねばならない」


「大丈夫です。お忙しいのに会いに来てくれてありがとうございます」


 本当はとても悲しかったが、そんなことは口にはできない。


「ずっと一緒にいたい」


 曙光は朱熹を強く抱きしめた。


「その言葉だけで十分です」


 朱熹も曙光を強く抱きしめ返す。


「できればこのままでいたいが、話さねばいけないことがある」


 朱熹は、曙光から体を離し、顔を見上げた。


「林冲のことですか?」


「ああ、そうだ」


 曙光の目はとても悲しそうだった。


 曙光も、まさか犯人が林冲だとは夢にも思っていなかったらしい。


「林冲は、天河国の密偵であった」


「いつから?」


「おそらく、最初から。とはいっても、林冲が天江国の文官となったのは二十五年ほど前のことらしい」
< 229 / 303 >

この作品をシェア

pagetop