なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 それほど長い間、林冲は皆を騙し続けてきた……。


 人に害を及ぼすとは到底思えない人だったのに。


「私、林冲とよく一緒にいたのに、気付くことができませんでした。林冲は心の声がよく聴こえる人でした。悪い人ではなかったんです。それなのに、どうして……」


 朱熹は林冲が密偵だったとはどうしても思えなかった。


 密偵であれば不穏な心の声が聴こえたはずだ。


 けれど、林冲からは少し天然なところはあるけれど、温かい心の声しか聴こえなかった。


「どうやら林冲は心の声が聴こえるらしい」


 衝撃的な一言に、朱熹は言葉を失った。


「心の声が聴こえるから、朱熹に対して聴こえても問題ない心の声をわざと聴かせていたんだ。本当の心の声は隠して……」
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