なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 けれど……。


 朱熹は胸にずっと引っ掛かっていたものがあった。


『守らなければ』


 曙光を殺そうとした時、林冲から心の奥底からの声が朱熹の胸に響いたのである。


 あれは、とても強く思った時にだけ聴こえる、本当の心の声。


 誰を守ろうとしていたのだろう……。


「ああ、もう時間だ。林冲の件が正式に終わるまで、会いに来る時間が取れそうにない」


 曙光はとても申し訳なさそうに言った。


「大丈夫です。待ってますから」


 林冲の件が正式に終わるというのは、五日後の死刑執行の日を指しているのだろう。


 五日経てば、ようやく落ち着く。


 けれど、喜んで五日後を待つ気にはなれない。


 林冲が死ぬのである。
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