なりゆき皇妃の異世界後宮物語
必死で頼んでいるのに、陽蓮はまるで暖簾に腕押しのように聞く気がない。


「僕だって同じようなものだよ。僕はもう、死んだことになっているんだ。僕にできることなんてない」


「でも……皇族ではないですか! その気になればいくらでも……」


 陽蓮は、初めて朱熹に対して冷たく鋭い眼差しを向けた。


「君は皇后だろ。皇族の力を失った僕よりよっぽど力がある。とんでもなく大きな権力を握っていながら使おうとしないのは、僕ではなく君の方だ」


 陽蓮に初めて皇族としての風格を感じた。


 朱熹は迫力に圧倒されて、ぐうの音も出なかった。


 陽蓮の言っていることは正論だということもある。


 朱熹は諦めて後宮に帰ることにした。
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