なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 まるでお前はもう、陛下に愛されていないとでもいうような口調だった。


『最近、お渡りがないから焦ってここまで来たんじゃねぇの?』


『見苦しいな』


『女は黙って男の訪れを待ってればいいんだよ』


 人だかりの中から朱熹を中傷する心の声が聴こえてくる。


(そんなつもりで来たわけじゃないのに……)


 朱熹は悔しさで拳をぎゅっと握った。


「陛下を呼んでくる気がないのなら、私が行くまでです」


 朱熹は門の中へ入ろうと、一歩前に出た。


 するとすかさず門兵が立ちはだかる。


「いけません」


「……退(ど)きなさい」


 朱熹は小さくも意思のこもった力強い声で命令した。


 一瞬、門兵は動揺する様子を見せるも、一歩も退く気はなさそうだった。
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