なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 彼は走って朱熹の元に近寄ってくると、騒ぎの元になっているのが一人の女性によるものだと分かると足を止めた。


 そして、男には決して見せない優しい色男の笑顔を向ける。


「やあ、誰かと思えば僕の妹じゃないか」


 紫 秦明は、驚きよりも、むしろ歓迎の様子で迎え入れた。


 朱熹は見知った顔に出会えて、ほっとして肩の力が抜けた。


「お兄様。私、至急陛下にお会いして伝えたいことがあるのです。陛下はどこでしょうか?」


「おやおや、僕の妹は慣例を無視して朝廷に乗り込んできたようだね。まったくイケナイ娘(こ)だね。でも可愛い妹のためだ、案内してあげるよ」


 秦明は朱熹の肩を抱き、官吏たちから守るように案内を始めた。


「秦明様、しかしここは……」


 官吏が慌てて止めようとすると、秦明は唇に人差し指を当て悪戯な笑顔を向けた。
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