なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「このことは、内緒だよ」


 太尉である秦明に言われたら、もう従う他ない。


 取り巻きのように朱熹の後ろに付いていた官吏たちは、めいめいに自らの持ち場に戻っていった。


「ありがとうございます」


 朱熹は、偽りの兄に小声で礼を言った。


「いいよ。困っている女の子を助けるのは、紳士の務めだからね。それより、理由は分からないけど急いでいるんだろ? さ、早く行こう」


 朱熹は秦明に促され、小走りで皇禁城を駆け抜けた。


 そして、最奥にある皇帝の執務室へと辿り着いた。


 コンコンコン、と秦明がドアを叩く。


 朱熹は走って息が上がっていた。


「今、忙しい。後にしてくれ」


 中から疲れ切ったような曙光の声がした。
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