なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 林冲の穏やかな笑顔が脳裏に浮かぶ。


 彼は、ただ守りたかっただけなのに……。


 長年苦しみ続けて、最後は死刑で亡くなるなんて、あまりにも無情すぎるではないか。


 林冲の家族は無事だろうか……。


 林冲が亡くなったと聞いたら、彼らはどんなに悲しむだろう。


 林冲の無念と、残された家族たちの気持ちを考えると、胸が締め付けられて涙が止まらない。


(私は、無力だ……)


 心の声が聴こえるという特異な能力が持ちながら、皇后という大きな権力を与えられながら、何も成すことができない。


(悔しい……)


 悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて、自分に対して怒りが込み上げてくる。


 助けることができなかった自分が悔しい。


 もっと自分がしっかりしていれば。


 もっと自分が強ければ、賢ければ。
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