なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 謎が残るが、わざわざ起こして聞くほどのことでもない。


(仕事がなくて、ここに追いやられてきたのかしら?)


 なにしろここは、利用者はほとんどいない。来るのは朱熹か陽蓮くらいである。


 怪しい人だと思っていたけれど、体に不自由があるからこの格好なのだと分かった。


 朱熹は府庫の番が起きないように、そうっと歩き、屋上の扉を開けた。


 陽蓮は真新しい革胡を丁寧に磨いているところだった。


(良かった、いた……)


 これまでいなかったことはないのだが、陽蓮を見るとなぜかほっとする。


 陽蓮は朱熹を見ると、にこやかな笑みを見せた。


「やあ、久しぶり。見てよ、ようやく完成したんだ」


 陽蓮は誇らしげに新しい革胡を掲げて見せた。
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