なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「名を申せ」


 皇帝陛下から言われ、朱熹はハッとして身を固くする。


「李 朱熹と申します」


 朱熹の声も広い室内によく通った。


 陛下を目の前にして萎縮する様子も見せず、堂々と名を告げたことに、皆から感嘆の心の声が漏れる。


 しかし、陛下の心の声はまったく聴こえなかった。


 射るような眼差しで朱熹を見下ろしている。


どのような心境なのか、朱熹に対してどんな印象を持ったのか、顔の筋肉をまったく動かさない陛下の心の内を探ることは不可能に思えた。


「主の作る餡餅はとても美味いと聞いたぞ」


「もったいなきお言葉です」


「持って参れ」


 陛下のお言葉に、青花白陶の高脚杯に乗せられた餡餅を持った官吏が歩み出る。


 餡餅は、毒見を済ませ、立派な杯に並べられている。


(豪奢なお皿に乗っていると、いつも作っている餡餅がとても高級なものに見えるから不思議ね)
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