なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 朱熹は大急ぎで、府庫へと戻り、奥にいる府庫の番のところへ行った。


 黒眼鏡をして、口髭を生やし、頭巾を被った男は、まだ寝ていた。


「り、り、林冲!?」


 朱熹が大きな声で呼びかけると、男は起きて顔を上げた。


「おやおや、もう気付かれてしまいましたか」


 聞き覚えのある声で男は喋り、おもむろに黒眼鏡と口髭を外した。


口髭は、テープで止めていたようで、外す時にビリビリと音が鳴った。


「ああ、ごめん。僕が言っちゃった」


 驚き過ぎて尻もちをついている朱熹の後ろから、陽蓮が気怠そうに言った。


「そうでしたか。朱熹様で気付かれないなら、他の人はまず私だと分からないでしょうね」


 林冲は自らの変装のクオリティーの高さを誇らしげに微笑んだ。


「な、な、な、なんで……」
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