なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 朱熹はまるで目の前にお化けが出たかのように驚いている。


 ちょうどその時、一階から階段を駆け上がってくる足音が響いた。


「林冲、林冲はおるか!」


 聞き慣れた声に、朱熹はまさかと思い、後ろを振り返って府庫の扉を見やった。


 すると、曙光が走って府庫に入ってきた。


 尻もちをついている間抜けな格好で曙光と対面する。


「朱熹、なぜここに」


 曙光は驚いた様子で朱熹を見下ろす。


「曙光様こそ、どうして。天河国に行っていたのではないのですか?」


「今しがた帰ってきたところだ」


 そう言って曙光は顔を上げ、府庫にいる陽蓮と林冲に目をやる。


 林冲は椅子から立ち上がり、曙光の側へと歩み寄った。


「陛下、わたくしは書孟と名を変えたのです。そんな大きな声で昔の呼び名を口にしないでください」
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