なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「本当にありがとうございます」


 林冲はむせび泣きながら礼を言った。


「勿体ない。最小限の労力で国土を広げるチャンスだったのに」


 陽蓮は腕を組みながら、ぽつりと言った。


「元々、無理やり奪い取ろうとは考えていないのです。

初代国王徽鄭の時代のように、大陸が一つになることを望んではいますが、それは国を一つにするということではないのです。

今はバラバラでいがみ合っている三つの国が力を合わせて平和に暮らしていくことが、大陸を一つにするということになるのではないでしょうか」


「……好きにすればいい」


 陽蓮は興味なさそうに吐き捨てた。


 曙光は微笑み、朱熹に顔を向けた。


「そういういきさつがあって、林冲は死んだことにしたが、これまで通り側で仕えてほしくて府庫の番をしてもらうことになった。

ここなら誰も来ないし、林冲が生きていることがバレることはないだろうと思ってな。

九卿に比べたら、やりがいがある仕事かと言われると言葉に困るのだが……」
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