なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 朱熹はすっかり感心しながら餡餅を見つめていた。


 すると、どこからか不穏な心の声が耳に届いた。


『毒見しても無駄だ。なぜなら毒は皿についている』


(えっ……)


 全身から一気に鳥肌が立った。


 心の声は悪意に満ちたもので、冗談や戯言などでは決してない。


『食え。一口でも食えばたちまち毒は体にまわり確実な死を迎えるだろう』


(待って! 嘘っ!)


 青花白陶の高脚杯に乗せられた餡餅は、全部で三個。


いずれも皿に皮が面している。


どれを食べても毒がついた餡餅となる。


 運んでいる官吏が犯人ではない。


声は朱熹の後ろから聴こえている。


『あと少しで、皇帝が死ぬ』


(駄目っ!)


 朱熹は心の中で声を荒げた。


ここで朱熹が餡餅を食べてはいけないと言ったらどうなるだろう。
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