なりゆき皇妃の異世界後宮物語
朱熹は太鼓のようにドンドン鳴る心臓を抑えながら、それもいいかもしれないと思った。


 愛しい人の温もりを感じられるのは、とても幸せだ。


 静かな時が流れている中、突然曙光が目を瞑ったままぷっと笑い出した。


「どうしました?」


「いや、すまぬ。朱熹が朝廷に乗り込んできた時のことを思い出したゆえ」


 朱熹もあの時のことを思い出し、顔を赤らめる。


「あの時は出すぎたまねをしてしまい申し訳ありませんでした」


 威勢よく乗り込んでおきながら何もできなかった苦い思い出だ。


「責める気など毛頭ない。むしろ心強かったぞ。何者にも憶することなく信念の元に行動する姿。男前であった」


「男前と言われても嬉しくありません」


 朱熹は口を尖らせながら言った。


 好きな男から男前と言われて、喜ぶ乙女がいるだろうか。
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