なりゆき皇妃の異世界後宮物語
『失敗だ、なんてことだ。早くここから逃げ出さなければ』


「お前じゃないのなら、毒を盛ったのは誰だ!」


 武官は怒鳴った。


「それは……」


 朱熹は混乱している官吏たちを見つめ、どこから声が聴こえるのか必死で探る。


『まずい、先ほど皿に塗った毒の残りが懐に入っている。これが見つかれば確実な証拠となるだろう』


 皆が朱熹を見ている中、一人だけチラチラと出口を見ている男がいた。


 黒い文官の礼服を着た、青白い顔をした男。


懐を隠すように手を腰に回し、そわそわしている。


(間違いない、あの男だ!)


 朱熹は、真っ直ぐに男を指さし、声を張り上げた。


「彼です! 懐に毒の残りを持っています!」


 指さされた男は、慌てて逃げようとしたところを数人がかりで押さえられる。
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