なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 暴れる男を押さえ、隠し持っていた袋を取り上げる。


「ありました!」


 官吏が袋を上に掲げ、声を出した。


「それを調べてください! 皿に塗られた毒と同じ毒が入っているはずです!」


 無事に犯人が捕まり、朱熹はほっと安堵した。


 緊迫していた雰囲気もいくぶん和らぐ。


 しかし一人だけ危急の様子を崩さない男がいた。


 玉座から立ち上がり、驚いた顔で朱熹を見つめる。


「……なぜ、犯人が分かった」


 陛下の言葉に、皆がハッとして朱熹を見つめる。


「それは……」


 朱熹は言葉に詰まり、目線を泳がせる。


(言えない……、このことは死んでも言うことはできない)


 朱熹にとって亡くなった両親の教えは絶対だ。


 それに、言ったところで信じてもらえるわけがない。


それならば、秘密を胸に隠し、潔く死を受け入れた方がましだ。


「……この者を、捕らえよ」


 静かに言い放たれた皇帝の勅命により、あっという間に朱熹は体を押さえられ、床に頭をつく形で固定された。


(仕方ないわ。こうなることは分かっていた……)


 朱熹は死を覚悟して、ゆっくりと瞼を落とした。

< 33 / 303 >

この作品をシェア

pagetop