なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 朱熹はドキドキしながら、兄という設定らしい紫秦明を待った。


 ドアが開くと、青紫色の深衣を着て、長剣を腰に差した高身長の美男子が両手を広げて部屋に入ってきた。


「やあ、我が妹よ。久しぶりだね、会いたかったよ」


 にこやかな笑顔で何のためらいも見せずに朱熹を抱きしめる。


「あ、あの……」


 武官の美男子は抱きしめた腕を解くと、戸惑いを見せる朱熹に向かって意味ありげにウィンクをした。


 相当女慣れしていそうな雰囲気がする。


「久しぶりの兄妹の再会だ。

積もる話がたくさんある。

君たちは下がっていていいよ」


 女官たちは頬を赤らめながら下がっていく。


『あの秦明様と目が合っちゃった。後宮に帰ったら自慢しちゃおう』


 などと心の中で言っているので、紫秦明という男はどうやら女たちの間では有名人らしい。
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