なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「それでは、私はここから先へは行けないので、ここからはこの者の案内でご歩きください」


 外で待っていた者が、こちらの気配に気が付き振り向いた。


「九卿の宗正をしております林冲(りんちゅう)と申します。宜しくお願い致します」


 目が細く、鼻の下に白ひげを生やした老臣だった。


 しかも九卿といえば、三公に次ぐ高官である。


わざわざそんな大臣級の高官が道案内をするとは思わず驚いた。


「た、大変申し訳ございません! 私の我儘でこのようなお手間を……」


「なに、構いませんよ。これも私の仕事なので」


『……というよりも、暇なのは私くらいしかいなかったから呼ばれたんじゃがの』


 林冲の心の声に、目をしばたかせる。


(え、暇なの?)


『若いおなごと宮中を歩くなんてデートみたいで楽しみじゃのう』


(デートって……)


 苦笑いが出てきた。


どうやら林冲は、高官だけれどもあまり仕事がない気さくな老臣のようだった。
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