なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 どれくらいの時が経っただろうか。


 借りていく本を物色して、両手に本が高く積み上げられている。


 ふと、耳に聞き慣れない音色が届いた。


 二胡よりも音程は低く、古筝のように音階が広いわけでもない。


けれどとても伸びやかで、美しい音色だ。


(誰が弾いているのかしら)


 朱熹は山のように積み上げた本を置いて、音を奏でる主を探すことにした。


 階段を降りて大ホールへと向かう。


そこには誰もいなかったし、音も遠ざかってしまった。


再び二階へ戻り、府庫以外に部屋がないか探した。


(おかしい、二階は府庫しかないけど、府庫の中から聞こえてくるわけじゃない。一体どこから……)


 朱熹は、ハッと思いついた。


 もしかして……。


府庫の大窓を開け外に出てみると、庭園のような屋上が広がっていた。


 そして、音の在り処を探すように辺りを見渡すと、木々や花に聞かせるように、椅子に座って楽器を足に挟んで演奏している男の人の後ろ姿を見つけた。
< 53 / 303 >

この作品をシェア

pagetop