なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 服は黒い長袍をゆったりと着ていて、肩まで届く薄い棕色の柔らかそうな髪の毛が、風に揺られている。


 小鳥のさえずりのように優しい音色は、彼の醸し出す雰囲気と相まって、心が穏やかになっていく。


(不思議な楽器を弾く、不思議な雰囲気を持った人だわ)


 朱熹は彼の後ろ姿を見ながら、じっと聞き続けていた。


 曲が終わると、彼はゆったりとした仕草で振り返った。


 そして、朱熹の姿を見ると、少しだけ驚いた顔をして、すぐに柔らかな笑顔を向けた。


「やあ、女性がいるなんて珍しいね」


「盗み聞きのような形で聞いてしまいまして申し訳ありません!

とても綺麗な音色だったもので、つい……。

あっ、申し遅れました、わたくし李 朱熹と申します」


「李 朱熹……、聞いたことある名前だな。

あっ、陛下のお嫁さん」


 不思議な男性は、朱熹を指さして言った。


(お嫁さんって……。まあ、その通りなんだけど……)
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