なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 そうは思っても、まさか、仮に、何かの間違いや戯れで……ということがないとも言い切れない。


(ついでに……ということもありえるわ)


 朱熹は待っている間ずっと、緊張で心臓が口から飛び出そうだった。


「陛下がお見えになりました」


 今香が扉の外から静かに告げる。


(きた!)


 朱熹は両膝をつき、拱手をして頭を下げると、天女の羽衣のように軽やかで美しい長衣の端が床に広がった。


 音もなく扉が開き、部屋に入ってくる気配を感じる。


 扉が閉まると、部屋の中は二人だけになった。


 朱熹は純白の長く流れるような衣に、透ける生地のショールを羽織っていた。


髪はハーフアップにし、胸下まで届く艶やかな長い髪先は、朱熹の息遣いで微かに揺れている。


 髪に挿した大振りの花簪が華やかで、シンプルな出で立ちながら上品さが醸し出されていた。
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