なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「後宮に来るのがこんなにも大変だとは思いもよらなかった。

今宵後宮に行くと言ったら、とんでもない騒ぎになって、回廊を渡る時の好奇な眼差しにすっかり疲弊したわ」


 曙光はげんなりした様子で言った。


 朱熹は緊張して高鳴る胸を鎮めながら、そっと杯に酒を注ぐ。


「それは大変でございましたね」


 努めて口元に笑みを浮かべ、柔らかな口調で言った。


 すると曙光は不思議そうな眼差しで朱熹を見つめた。


「そなたも大変だっただろう」


「ええ、後宮内は大騒ぎでしたよ」


「やけに落ち着いているな。もっと拒絶されるかと思った」


「拒絶?」


 今度は朱熹が不思議そうな眼差しで曙光を見た。


「本意ではなかったであろう。……余の妃となることが」


 じっと朱熹を見つめる曙光の眼差しが、少し寂しげで、触れてほしくない傷口に自分で触れたような顔をしていた。
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