なりゆき皇妃の異世界後宮物語

「本意では……なかったですが……」


　朱熹は曙光の眼差しを避けるように、意味もなく床を見た。


　どうしてそんなことを言うのだろう。


　まるで、本意ではなく結婚したことに傷付いているような……。


　曙光から全く心の声が聴こえてこないので、どのような態度を取ればいいのか分からない。


　どうして彼は、こんなにも熱く自分のことを見つめるのだろう。


「余が……部屋に訪れることを、怖いとは思わなかったか？」


　曙光が手を伸ばし、朱熹の頬に軽く指先で触れる。


　ピリリと静電気が走るように、胸が高鳴った。


　曙光の声色は、朱熹を責めるわけではなく、優しい甘い声だった。


　怖くないと言えば嘘になる。


かといって怖いですとも言えない。


　さらに、怖くないですと言って曙光の熱い眼差しに目を向ければ、合意の合図だと捉えられるような気もして答えられなかった。