なりゆき皇妃の異世界後宮物語
(何を今更、怯えているの。

こういう展開になることは想定していなかったわけじゃない。

陛下が望むなら、身を捧げるのが私の役目……)


 朱熹は覚悟を決めた。


「陛下、一つだけどうしてもお聞きしたかったことがあります」


「なんだ?」


 朱熹は目線を上げて、曙光と見つめ合った。


「私を親代わりとして育ててくれた餡餅屋の夫婦には、私のことはどのように伝えているのでしょうか?」


 真剣な朱熹の眼差しに、曙光は平静さを取り戻した。


「ああ、そのことなら何の問題もない。

彼らには余がそなたを気に入って後宮に召し上げたと伝えている。

結納金も弾んで出したゆえ、今後彼らがお金に困ることはないだろう」


「そうですか」


「結納金よりも、そなたが後宮に入ったことを何よりも喜んだと聞いておる。

本当の娘のように、そなたの幸せを願っておったのであろう」


「……はい」
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