なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「今回も私の我儘に付き合わせることになってごめんなさい」


「いいえ、とんでもございません。これも立派な仕事でございます」


『面倒な書類仕事を若いのに押し付ける口実ができて良かったわい』


 相変わらず林冲の心の声はよく聴こえる。


 朱熹は笑わないようにするので精一杯だった。


「さあ、本日はどちらに向かわれますかな?」


「もう一度府庫に行きたいの」


「芸術の森ですね。かしこまりました」


 林冲は嬉々として歩き出した。


『府庫に行ったらひと眠りするかの』


 サボる気満々らしい。


 朱熹はまたしても吹き出しそうになるのを堪えていた。


 ふと、林冲が真面目な顔で朱熹の顔を見た。


(……何かしら?)


「お元気になられたようで良かったです」


 林冲は柔らかく微笑んだ。


「……ええ、おかげさまで」


 朱熹は少し恥ずかしそうに俯いた。
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