なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 皇帝が後宮をお渡りになったことは宮廷内にも知れ渡っているのだろうか。


 皆が想像するようなことはなかったとはいえ、朱熹が元気になった理由は皇帝の存在が大きい。


 あのような誠実な方のお側で仕えるのなら、後宮暮らしも悪くないと思えるほどだ。


「さあ、着きましたぞ」


 林冲は芸術の森と呼ばれる殿舎を見上げながら言った。


 外観は相変わらずの薄気味悪さである。


(前に来た時からあまり日が経っていないのになんだか懐かしいわ)


 朱熹が感慨深げに殿舎を見て、中に入って行った。


 迷うことなく二階へと上がる。


府庫の部屋のドアを開けると、本が太陽の光に照らされてキラキラと輝いているように見えた。


「それでは私は奥の方にいますので、ごゆっくりとご覧になってください」


 林冲はいそいそと府庫の奥へ消えていった。


 朱熹は新しく借りる本を物色しながらも、あることが気になって仕方なかった。
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