なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 外から聞こえた革胡の音色。


 あんなに美しい演奏は聞いたことがなかった。


さすがは演奏家である。


 それに、陽蓮という男の存在も気になっていた。


 不思議な雰囲気を漂わせている人で、掴みどころのない柔らかな笑顔が妙に心に残っている。


 本を選びながらもチラチラと外の様子を気にする。


(彼は今日もここに来ているかしら……)


 耳を澄ますと、小鳥が歌い木々が囁くような美しい音色が聞こえていた。


(革胡の演奏!)


 朱熹は急いで本を一冊選び終えると、跳ねるように外に出た。


 思った通り、陽蓮は以前と同じ場所で同じように森に溶け込むように革胡を奏でていた。


 その姿はまるで天の使い人のように浮世離れしていて、自分の世界に入り込み演奏している姿はとても楽しそうに見えた。


 一曲演奏を終えた陽蓮に拍手を送る。


 すると陽蓮はハッとして顔を上げ、拍手の主が朱熹だと分かると、柔和に微笑んだ。
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