片想いの奇跡






私は転びそうになりながら、上坂さんから離れた。



言葉も悲鳴も出なかった。



私は上坂さんの動きに警戒しながら手の甲で自分の口許をゴシゴシと拭った。それでもまだ足りなくて、おしぼりを探した。もう床を拭くモップでもいい。



「チクっても君に勝ち目はないよ。どっちが誘ったかなんて証明しようがない。俺は君のハニートラップに遭ったと主張するだけだからね」



「わかりました。これ以上、何もしなければ、バッグを私に投げてくれれば、それでいいです。帰ります」



「何もしないよ、もう。勝手に持っていけ」



私は恐る恐るすぐ逃げられる体制のまま上坂さんの後ろを通った。上坂さんの動きを見失わないように目を向けたまま。





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