片想いの奇跡






ああ、私、泣きたくなっている。



そういえば私、泣かずにここまで来た。



慌てて手の甲で目を擦ると、それがきっかけだったかのように涙が溢れた。



子供のように……そう、子供の時のように、一度綻んだ涙腺の緊張はもう自分の意志では戻せない。そう、子供の時のように、私は泣いていた。声を上げて、わんわんと泣いていた。車内のみんなが私を見ている。構わない、というか、羞恥よりも何よりも、止められない。泣き疲れるまで止められない。口を開けて上を向いて私は泣いた。もう周りは見えていない。



そのとき、私の目の前にティッシュが差し出された。よく人ごみの中でもらうあのポケットティッシュ。
 


差出人は、あの彼だった。仏頂面で、でも怒っている表情でも困惑してのそれでもなく平然とした表情で、ほら使えよ、という感じでぴくんとひと揺れポケットティッシュを翳し、有無を言わせない受け取れのジェスチャー。



忽ち私は子供がお気に入りのおもちゃを差し出されたときするようにぴたりと泣き止んだ。





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