片想いの奇跡
「今僕は料理に気が行ってる。アートとしては面白い。みんな目で喜ぶ。そしてお腹いっぱいになる。幸せそうな顔になる。皿には何も残らない。でも、その汚れた食器も続きのアートなんだ。落書きなんかよりずっと意味がある」
「……」
私は聞き入った。彼はクリエイションのトークは雄弁になるみたい。ここのところ、私はアートに向けての進路へのモチベーションが曖昧になっていた。でもやはり、私は創作が好きだ。こういう話は聞き入ってしまう。
「君は料理はやるの?」
「得意じゃないです。バイトは調理じゃなく家では母親に文句言ってるだけで」
「僕は授業よりバイトで拵える料理のほうが面白くなった。だから大学に金を払う意味がなくなった。それで辞めて本格的に料理を学んだ」
「そうなんですか……」
彼の言葉には何かを含んでいるような気がしたけれど、私には察知できなかった。