片想いの奇跡
「あ、そう」
「違いました?でもイラスト誌に載ってた写真に…… 髪型とか全然違うくて、けどそういえば似て……でもそのときカッコいいな……って……そうか、だから私、気になって……」
「……帰ろっか」
彼、埜上さんはゆっくり立ち上がった。
「違います?」
私はしつっこく、訊ねる。
埜上さんはゆっくり階段へと歩を進めた。私に背を向けたまま、
「そうだよ」
と言い残して去って行った。
私は口を開けたまま、次に何を言えばいいのかわからなくなって、もちろん、追いかけることもできなくなって座ったまま、ただ眺めるだけだった。憧れの人に会って、喜びと恥ずかしさが爆発的に胸に充満して、窒息感が声も足も殺していた。