この恋は少しずつしか進まない



「元カレですか?」

「……う、うん」

「別に隠さないで言ってくれたらよかったのに」


家の中に入ると、テーブルには加島が作ってくれた料理が並んでいた。


……そういえば帰り際に晩ごはんは作っておくと言ってくれていたことを今さら思い出す。


ラップがかけられている料理はふたつ。

自分のぶんさえ手を付けずに待っていてくれただけじゃなく、晩ごはんは私が前に食べて美味しいと言ったトマトパスタだった。


「ごめん。加島……」

「いや、いいですよ」

「私、食べるよ!」

「もう冷めてて美味しくないですから」


加島はそう言って、お皿を片付けはじめた。


……私のバカ。

辰巳さんと会うことを知られたくないと自分のことばかりで、加島のことを全然考えてなかった。


ちゃんと連絡すればよかった。

もう、本当にバカすぎる。


「もしかして、元カレとやり直す感じですか?そうなったら俺は出ていったほうがいいですよね」


ジャアアと響く洗い物の音。こんなにも重苦しい空気は初めてかもしれない。


私は加島の言葉に、「うん」とも「ダメ」とも言わなかった。

だって加島が一度も私のことを見ない。だから、怒っているのかどうかも分からない。


リビングには加島が一緒に見ようと言ってくれたDVDが置かれていた。その側には私が好きなコンビニのお菓子も用意されている。


加島は自分勝手だと思っていたけれど違う。


加島は……私のことばっかりだ。


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