この恋は少しずつしか進まない



それから放課後になって、また辰巳さんからメッセージが届いていた。

学校まで車で迎えにいくと言うので、さすがに目立つから駅で待っていてほしいと伝えた。


美伽は彼氏とデートのようで、私よりも先に教室から出ていった。

辰巳さんを待たせるわけにはいかないと急いで帰り支度をして昇降口へと向かっていると……。



「……あ」

その途中で、加島と鉢合わせ。

いつもなら「水沢先輩」と笑顔ですり寄ってくるのに、私たちの距離は一定を保ったままお互いに動こうとはしない。

私はこのままじゃ余計に気まずくなるだけだと、声を出した。


「あ、あのさ。今日はうちに帰ってくる?」


友達の家に泊まるという連絡は受けていない。

そもそも本当に友達の家に行っているのかどうかも分からない。


また段ボールで家を作るなんて無謀なことをしてたらどうしよう。

そこら辺で、野宿をしてる可能性も……。



「すみません。今日は理沙に会います」

「え、理沙ちゃん?」

予想外の返事に私は目を丸くする。


「はい。ずっと話したいって連絡もらってて、俺もいつまでも逃げてたらダメだなって思って」

「そう、なんだ」


理沙ちゃんと向き合うことにしたのは素直に良いことだと思う。

でも、加島の口から久しぶりに理沙ちゃんの名前が出てきて、胸が少しだけチクンとした。



「先輩はこれからデートですか?」

「……デートではないけど約束はしてる」

「そうですか」


また私たちの間に沈黙が流れたあと、「じゃあ」と、先に靴を履いて校舎を出ていったのは加島だった。


……私たちって、いつからこんなに他人行儀になっちゃったのかな。


加島とどんな風に話したらいいのか分からなくて、加島を追いかけることもできないことが、とても苦しかった。


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